東京高等裁判所 昭和44年(行ケ)63号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 引用例の構造及びこれと本願考案との相違点が本件審決認定のとおりであることは、原告の認めて争わないところであるが、本件審決は、右相違点をもつて単なる設計変更にすぎず、本願考案は引用例から極めて容易に考案することができたものであるとした点において判断を誤つたものであり、違法として取消を免れない。以下その理由を説明する。
本願考案においては、前記当事者間に争いのない考案の要旨とのおりの構成をとることにより、軸杆により珠を軸支した場合、珠を軸杆の前記中心点の上方において、少なくとも二個所で接触支承でき、したがつて、珠の摩擦を増大できるため珠が著しく安定し、従来の一線接触支持の算盤におけるように、過滑性による珠の撥返り、揺動、回転摺動を確実に防止し、従来の軸杆を断面正円形とした場合の滑り抵抗は小さいが、回転力が大きく安定性に欠けるという欠点を除去し、もつて、珠の過滑性に起因する計算違い、算盤の入れ直し等の支障を来たすことなからしめようとしたものであることは、明らかであるところ、引用例は、当事者間に争いのない本件審決認定のとおりの構造をとることにより、軸杆の凸部は珠の内側に接触するが、凹部はこれと接触することがないため、接触面の多少によつて生ずる摩擦力は断面全円の軸杆に比して著しく減少し、珠の運動を軽滑ならしめ、運算能率を増進することを意図したものであることは、明らかであるから、両者は、軸杆断面が正円形でないという点が共通のるだけで、それぞれの構造及びそれによつて示される技術思想を全く異にするとみるを相当とする。したがつて、本件審決が、本願考案と引用例との前記相違点を単なる設計変更にすぎないと断じたことは、根拠のない即断というべく、これを前提として、本願考案をもつて引用例から極めて容易に考案することができた程度のものであるとしたことは、判断を誤つたものといわざるをえない。ましてや、引用例も珠の中心より上方の二点において珠を支持し、珠の安定性を増すことができるかのように説示する点は、全く引用例に開示された技術思想を誤認したものというほかはない。けだし、引用例は、断面全円形の軸杆が珠の内側に全面接触する軸支機構を前提として、断面全円形の軸杆の外側に縦に数条の溝様の凹部を設けることにより、摩擦面積の減少に伴なう摩擦力の軽減による珠の動きの軽滑化を図かつたものであり、そこに、珠の中心より上方の二点において珠を支持すのることにより、珠の軽滑を抑制しようとする技術思想など、いささかも窺いえないことは、明白に理解しうるところであるからである。
(むすび)
三 叙上のとおりであるから、その主張のような判断の誤りのあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由があるものということができる。よつて、これを認容する。
(三宅正雄 中川哲男 武居二郎)
<注>一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和三十九年十一月十日、「ソロバンの製造法」(のちに「算盤珠の軸支部」に補正)につき実用新案登録出願をしたところ、昭和四十一年六月三日、拒絶査定を受けたので、同年七月二十八日、これに対する審判を請求し、同年審判第五、四一二号事件として審理されたが、昭和四十四年五月八日、「本件審判の請求は、成り立たたない。」旨の審決があり、その謄本は、同年五月二十四日原告に送達された。
二 本願考案の要旨
上下方向間の径より左右両側方向間の径が大なる形状の算盤珠軸杆において、その左右両側方向の最外側方に位置する両点を結ぶ線が、最上下点間を結ぶ線の中心点より上方に位置するように軸杆を形成すると共に、軸杆断面の全周囲を凹面のない膨弧面で形成し、該軸杆により正円形の珠穴を有する算盤珠を軸支するように構成した算盤珠の軸支部。